龍司の プロジェクト・Y
ホームページの更新も滞りがちな今日この頃、龍司はいったい何をしているかというと、ただ今、亜炭炭鉱に関するレポートのまとめと、ドキュメンターリービデオを作成中。おかしなものに凝りました。
隣町、中津川市落合地区で、戦前から戦後の一時期、石炭よりも質の悪い燃料、『亜炭』というものが掘られていたそうで、別件調査で中津川市鉱物博物館を訪ねた龍司が、館の方から、その亜炭の炭鉱があったことを小耳にはさんで、もうひとりの友人と一緒に、今度は亜炭についていろいろと調べておりました。
実際に落合地区へ行って大勢の人から聞き取り調査するうち、昔亜炭の炭鉱を経営していたというひとりの老人に出会い、96歳になった今でも、かくしゃくとして昔を語る姿に、おおいに感動した龍司は、この人の生き様と、陥落などの亜炭鉱害、戦争特需に翻弄されて花咲き、散って行った落合亜炭の物語を書きとめて卒業記念に残すとはりきっていたのです。
ネットで、戦中・戦後の新聞記事検索、多くの図書館で関連資料の蔵書検索、時代をさかのぼって、亜炭が形成されるもととなった、数千年前の予想地形図のCG作成、そして落合よりも大規模に掘られていた御嵩町にも足を運び、御嵩町の人からも話しを聞き、でっかい亜炭の現物をもらって大喜び。落合コミュニティーセンターや中津川市役所で落盤事故・陥没事故の写真や資料を探したり、インタビューをビデオに納めたりして、ソーステープは14.5本にもなったようです。とにかくありとあらゆる資料と、自分で撮ってきた映像をもとに、落合亜炭に関するレポート版と、30分ほどのドキュメンタリービデオを作るというのです。
今記録しなければ、当時のことを知る人々も年々少なくなり、人々の記憶も風化して炭鉱があったことすら忘れ去られるというところに、「僕がやらなきゃ誰がやる!」というような妙な使命感に燃え、パソコン能力をフル活用してかかっている。もともと、レポート4.5枚で済むはずのものを、この際だから、落合に残る文献・資料、人々の話しなど、総合的にまとめて、しっかり残せるものを作りたいと、欲を出して始まったこと。そして、やればやるほど皆さんの期待を受け、あとに引けなくなって、とにかくこの3ヶ月間、エネルギーのほとんどをこれに費やし、現在も進行中。もうとっくに卒業式も済んだんですけどね・・・・・
龍司が何か事を起こすと、国家総動員法ではないけれど、家族全員が、そのことに借り出され翻弄されるという事がいままでも度々あって、今回もまたその例。
「戦争でみんな食糧難でも、落合だけは、軍が亜炭採掘のための奨励を出して、白米も酒も浴びるほど飲んだんやって・・・・・それで、その酒や米が豊富に手に入ったっちゅう、イメージ映像がほしいんやけど・・・・」
そういう龍司に仕方なく付き合って、どこかに古いおひつがあったわけだからと探し、それに山盛りお米を盛って、それでも上からどんどん米がつぎ込まれてこぼれるようなシーンを撮る。思いついたらすぐやらなければ時間がない。深夜2時、3時、家中の明かりをすべて消して、米にだけライトを当てて、おひつの下にはこぼれてもいいように風呂敷を敷き、少し上から米を落とす。お酒(水)も同様にして徳利につぎ込まれるシーン。これは水びたしになるのでその対策も大変。
「がらっと場面転換、戦後亜炭採掘の幕あけ、落合に朝日が差し込んでくる映像が欲しい」
またそう言えば、翌朝4時半に起きて今度はお父さんが車を出し、落合まで行って日の出を待つ。
「落盤事故があったんやって・・・・暗闇の中で、人が助けに来てくれたというような、闇の中にちらほら明かりが見えるような、足音も近づいてくるようなイメージが欲しいんやて・・・・」
ほらまたか。砂とか、砂利の場所がいる。じゃこうしようと、今度は弟たちを連れて行って、夜、坂下神社の境内の砂利地で、数人が急ぎ足で駆けつける足音と、闇の中に救助の明かりが光るシーン・・・・・
この家族、こんなアホなことばかりやって、はたから見れば、やっぱりおかしな家族だろうね。龍司の思いつきにいつも振り回されることが、慣れっこになってしまった。でも同じように巻き込まれた他人様は、きっと迷惑だったに違いない・・・・・たとえば高校の理科の先生。学校にあった鉱物標本の中から北海道産石炭を見つけ出し、それと御嵩でもらってきた亜炭の顕微鏡比較写真を撮ると言って、前から後ろから斜めから、なめまわすようなビデオ撮影。学術資料に載っているような出来栄えに仕上げるまでに、理科室でまるまる2日も付き合せてしまったとか。そして一番の被害者は共同取材をした友人。龍司の、次から次へと手を広げる展開には、驚きの連続だったみたい。
そうやって苦労して撮った数々の映像も、実際に使うところは、レポートには1枚の写真、ビデオには5秒10秒という短さで、それをパソコンで切り貼りして10分20分と仕上げて行く。このこつこつこつこつ作りこんで行く過程が、龍司にとっては、たまらなく楽しいらしいのですが、はたして出来栄えはいかがなものか。本人は、NHKのプロジェクト・Xを超えて、プロジェクト・Yくらいのつもりでいますが・・・・あやしい。
それにしても時間がない。3月の末には引越ししなければならないというのに、あせるのは親ばかりで、本人はまだソフトのことなど、いろいろと手掛けていることもあって、目の前にある課題をこなすのに精一杯。そして誰よりも思いっきり充実していそう。
ビデオ撮影など始めた理由は、この1年あまり、テレビの取材がいろいろとあったおかげで、自分が被写体となることより、テレビ局の人の仕事ぶりが非常に気になって仕方なかったのです。取材を受けつつ、ディレクター、音声、カメラマン、それぞれの仕事をちらっちらっと観察しながら、『映像で表現する』という、今まで踏み込んだことのない分野が、面白そうで、自分もやってみたくてしょうがなかった。幼い頃、大工さんの仕事をよだれをたらしながらじっと見ていて、自分ものこぎりやのみできざんだり、ハンマーを振り上げたくなったりしたのと、同じパターン。
マスコミ各社さま、龍司を観察に来たつもりかもしれませんが、龍司は皆さまのお仕事を逆にあの子なりにしっかり観察していました。インタビューのテクニック、裏付け資料の集め方、カメラアングル、風景の撮り方、人の取り方、放映を見て、どうつないでどう表現したか・・・・・要するにこの子は、ひとまね小猿なのです。人が面白そうなことやっていると自分もしたい。今回もそのつぼにはまる龍司。
テレビカメラや、もこもこに毛のついたでっかいマイクを間近で見ていた龍司は、たとえば、幼な子が隣の子のおもちゃを物欲しそうに見ている表情とまったく同じで、私は、これはまた龍司が、何か事を起こすぞ、といういやな予感がしていたのです。
「カメラ向けても、まったく自然体で、少しもあがっていませんね」
よくそう言われましたが、それは自分が撮られているとことよりも、撮る側の動きのほうに興味が集中していたからではないかしら。
で、案の定、ついに行動に出てしまった。でも龍司がいくらがんばったって、やっぱりドキュメンタリー製作は初めてだし、機材と資金力の整ったテレビ局にはとうていかなわない。放送部のコンクール作品などでも、10分〜15分が限度なのに、いきなりド素人が、30分ものを作ろうなどと。それでも手探りで、手持ちのカメラを酷使して、見よう見まねの、素人っぽさが売りのビデオが、なんとか出来ていきそうです。
私もかたわらで、内幕をあかせば非常にローテクで滑稽な龍司の映像編集に協力したり、4月から大学へ行くため、生活用品を揃えたり、引越しの準備をしたりと多忙。こんぺいとうを持たせて送り出す日が刻々と近づいている。別れを惜しむ暇もなく、猛スピードで過ぎてゆく時間。
レポートは、地元の人々の期待も多く、細かく調べて残してくれるのは大変有難いと言われているそうで、高校の担任の先生にも進められて、せっかくだから印刷して配るという話しにまでなったそうだけど、どうやらこれは『母のたわごと』への対抗心かしら。私の本が出来たときも、もの欲しそうに見てたから。ほらね、やっぱりひとまね子猿でしょ。
ところがこれとて、経費節減のため自宅で印刷。70ページを110部作るため昼夜兼行交替で印刷にあたる。私達は交替制でも、プリンターは、本当に50時間、片時も休まず動いてくれた。少々のろいのには目をつむって、動いてくれたことに感謝。にわか仕立ての印刷工場は、皆、疲れすぎたハイテンションで、妙に活気付いていたわね。
3ヶ月間全力で取り組んだこの大仕事を、新生活の底力にするためにも、なんとか納得のゆくひと区切りをつけさせてやりたい。これが最後のお勤めかしら。家族一丸となって応援しますとはまさにこのこと。弟達にも感謝しなきゃね。なんだかんだ言ったって、いい兄弟。新生活の道具は、最低の品で揃え、贅沢はさせられない。でも龍司にみんなで協力して、思う存分やりたいことやって、家族愛の密度においては、これ以上の贅沢はないと思うよ。
むかしむかし、はじめの一歩、そんなばかなことやめなさいとしかりつけて、既成のおもちゃで遊んでいてくれる子だったら、私は寝不足や心配でこんなにもくたびれることもなかったのに、この子は遊びを自分で作り出していかないと満足しない子だった。ばかなことの連続だったけど、ばかなことを素直に止めるような子だったら、きっと面白いこともなかっただろう・・・・・とにかくこの家の中には、次から次と、いろいろな出来事が起こり、いろいろな人が訪れた。出来上がったものがどんなに不器用でも、それについやす時間の中に、これ以上の快楽はないというほどに喜ぶ子。
ひとまね子ざるは、ひとまねをしていろいろ学び、その中に、いつしかひとまねでない、自分を作ってきたのかしら。ばかなことに、つい手を貸してしまう自分のばかさかげんも笑えるけど、龍司のばかは、最近益々筋金入りになってきた。
龍司の聞き取り調査にご協力して下さった、とあるご老人の談、
「俺もお前に刺激されて、中津川市の橋や碑について調べて書くこと、引き受けてしまった・・・」
龍司が書いているこの物語の主人公ともなった、96歳の老人は、
「高校生に戻ったようだ・・・・年は離れているが、これも何かの縁だから、俺を友達にしてほしい・・・」
またさらには、龍司と話しがしたいとおっしゃって、わざわざ家に訪ねていらして、何時間にも及ぶ地質学の講義をして下さる方まで。
どうやら、人を活性化させるウイルスでも、持っているのかしら。
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新型ペット吉本龍司。平凡な日常にいやけがさしている方、生活に刺激を求めるご家庭にお勧め。雑食性。夜行性。電話線だけ確保しておけば多少劣悪環境でも飼育可。性格温厚。大声で泣いたり、奇声を発したりするようなことはございませんが、飼い主が疲れていようと、寝ていようと、かまわず頻繁につまらない話しをしてきますので、相槌程度に、常に相手をしてあげることが必要。これさえ守れば、飼ったその日から、次から次と興味あることに手を伸ばし、家族を巻き込むこと間違いなし。ご自分の時間を大切になさりたい方、人生をなるべく楽して過ごしたいと思う方には不向き。
バッテリーが減少すると、予告なしにスリープモードに切り替わります。充電時間は、その時によってまちまちで、3.4時間で復旧することもあれば、15時間ほどかかる場合もございますが、これは製品の不具合ではなく、仕様ですので、そのまま復旧を待ってください。
さあ、あなたも、吉本龍司を飼って、平穏な生活をかきまわされてみてはいかがですか?
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この家に、もうすぐ静かな日々がくる。
リュージという名の、犬でも飼うか・・・・・・
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