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過去のHOBBY傑作選
借金する人々
実を申しますと、私は釣具屋をやる前は、とある金融機関に勤めておりまして、ずーと金貸しと不良債権回収をやってました。
その時の話しを少し。もう15年以上前の話しなんですけど。
まぁ、田舎の金融機関ですから、大きな会社より中小企業や個人商店、そして一般個人への融資が多かったのですが、返済を怠る人には変な共通点が有ったり少々変わった人がいたりと。
まぁ、そんな人の話を読んで自分の生活と比べてみたりして下さい。


「とっても貧しいディナーの巻」

貧乏を絵に描いたようなSさんの話しなんですけど、Sさんへの貸付額は高々30万円程度でした。
でもSさんは、利息を少し入金するだけだし返済期限も切れてしまい、とにかく回収を急ぐよう上司に言われました。
でもまぁ、しっかりとした保証人も付いてましたし、取りっぱぐれは無いと踏んでました。
債務者はケガをして長期休職中で収入は無く、連帯保証人(連帯と連帯が付いてないのでは大違い)に返済の請求をしましたが、
「少しでも債務者から取ってくれ。取る努力をしてくれ。」と申したものですから、それも当然、債務者宅へ毎晩のように押し掛けました。
“まち金”や“サラ金”と違いまして、そうそうむたいな事は出来ませんでしたから。その手のとこだったらサッサと取りやすい所から取りますから。

必ず居るだろう夕飯時を狙って行ったのですが、
「Sさん、お願いしますよ、何とか少しでも集金させて下さい。」とか言って集金出来たのは一週間に1000円ほどづつ。
こりゃ無いだろうと思ったのですが、その一家のディナーを見ると・・・・取れないな、と。

一家団欒の夕食、貧しいながらも楽しい我が家のハズ。
そこの晩飯は・・・・今でも鮮明に覚えています。小さな取り皿に海苔の佃煮とちりめんじゃこが少々。
次に行った時は、何故かやっぱり取り皿に白菜の漬け物少々に、好物なんでしょうか海苔の佃煮。「ホントに金無いんだ。」
そう思いましたよ。
それ見たら取れないですよ。いかがですか?貴方ならそんな人からむしり取れますか?


「マヨネーズはどうなった?の巻」

兼業農家だったBさんは、とりあえず給料もちゃんともらってるし、米も野菜も家で採れるし何で返済が滞るか分かりませんでした。

ある夏の暑い日のこと、私はサッサと昼食を済まし昼食で居るだろうBさん宅へ向かいました。
Bさん本人は会社へ行って居なくても奥さんには会うことが出来るだろう、と。
行って見ると留守だったのですが、Bさん宅は我が市の中でも郊外の方で、人通りも少ない所で、それもあるからでしょう、玄関も窓等も開けっぱな。
誰か居ないのかと、玄関の中に入って大声で呼ぶも、やっぱ留守でした。

玄関の中へ入ってみると居間は丸見えで、居間で食事をしてるのでしょう。言っては悪いがみすぼらしいちゃぶ台の上は、食事の後かたづけもしてないままでした。
「おいおい、かたづけくらいチャンとしろよ。」と好奇心大誠な私は、ちゃぶ台の上を良く見てやろうとのぞき込むと、その上には・・・・
ふたの閉まってないマヨネーズが、そして約25cmにわたった絞り出され曲線を描くマヨネーズその物が有ったのです。
「汚ったねー。」と思いつつ、その場をあとにしました。

翌日も暑い日でした。やっぱり昼時に行ってもBさん宅は誰も居ません。
私は妙な予感とも期待ともしれず、居間のちゃぶ台をのぞき込みました。
御飯茶碗やらお皿やらが散乱したちゃぶ台の上に、思った通り有りました。昨日のままのマヨネーズが。
「うへ〜、腐ってないのかな?思ったより蠅がつつかないな。」と妙に感心したりして。

さらに翌日、Bさん宅を訪ねてBさんと奥さんに会うことが出来ました。
奥さんは「散らっけぱなしで、すみません。」とか言いながら、あのマヨネーズをかたづけました。放置されたマヨネーズはやっと処理されました。
「最低でもマヨネーズは3日はあのままだったな。腐ってたのかな?もし俺と会わなかったら、何日マヨネーズは放置されたんだろうな?」
私の頭の中はマヨネーズでいっぱいでした。

Bさんも奥さんも何事にも本当にだらしのない人だったわけです。


「開運印鑑の巻」

Nさんは、いわゆる女社長。小さな町工場をきりもりしていました。
仕事は忙しそうなのですが、あまり儲かっているとは言えず、借入金の残高はいっこうに減りません。
借金はその仕方と言うか、種類にもよるのですが利息だけを納め、返済を先送りに出来るものが有ります。
書き替えとかジャンプとか言うようです。

私は「Nさん、書き替えばかりで、利息ばっか支払って借金も減らないし、少し は返済を考えましょう。その方が経営も楽になるでしょ。」と言っていました。

ある日のこと、「これから私は儲けるよ。私もこれからだから。絶対良くなって行くから!」
と、私にNさんは力強く言いました。新しい取引でも始まるのか、何かお金が入ってくる予定でも出来たのかと、思ってたところ・・・・

「実印、代えたから!これ見てよ。日本でもスッゴイ有名な先生の作品なのよコレ。今までの私の印鑑はお金が出て行く相だったんだって。これで大丈夫だから。」
絶句する私。
「その先生は・・・・」と印鑑を彫った人がいかに凄いかを延々と話すのです。
それを遮り、「と、ところでいくらしたのですか?」と私。
「実印と銀行印と認め印で100万円。本当は象牙にしたかったのだけど、高いから水牛で。でも先生に作ってもらったのに100万は凄い安いんだよ。」と。
「ひゃ、ひゃくまん!何で、100万も使うのだったら返済に回さないのですか?」と当然聞く私。
「大丈夫、見ててよ。これから大儲けだから。」と。何が大丈夫なのか、ちっとも分かりません。

ご想像通りです。その後、Nさんの会社はさらに火の車となりました。

ある日、私が叔母の所に行くと一人の上品そうな老婦人がいました。
叔母に何やらしきりに話しをしてました。
聞いてみると、印鑑を代えたらいかに運が良くなったのか、どんなに儲かるようになったのかを自慢してます。
要は叔母に印鑑を売りつけに来てたのです。
叔母は知り合いみたいで無下に断りづらい様子でしたので、私は
「印鑑はりっぱでも、借金だらけの人は大勢いますよ。金貸しをやってると何人もそんな人は見てますよ。」と言うと、
「何言っとりゃーすの!!私が紹介しとるのは、そんじょそそこらの印鑑と違うでイカンわー。日本でも三本の指に入る先生の印鑑なんだで。一緒にせんどいてよ!」と。
セールスを中断され怒ったのでしょう。名古屋弁でまくし立てて来ました。
「このオバさんが、Nさんに印鑑を売ったんだな。」のピンと来ました。オバさんが中間マージンをたっぷり取ったのも容易に判断出来ました。

ちなみに、そのオバさん、開運商品を売りつけたりして一時は随分と景気が良かったそうですが、そうそうは続かず金が無くなったところで、家に火をつけ、家の中に高価な壷が有ったと嘘を言って、保険会社から保険金をタンマリと騙し取ろうとしたらしいのですが、失敗に終わったとのことでした。

ちなみに私の実印は350円です。

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