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再度のチャンス 伝えたい言葉が、心に溢れていたにもかかわらず、彼女も、それをちゃんと聞いてくれようとしていたにもかかわらず、 生身の彼女を眼前にして、極度の緊張状態にあった私は、何も言うことができませんでした。 そのことが、悔しくて悔しくてたまりませんでした。 けれども、そんな私の気持ちを見透かしたように、思ったより早く、彼女は再びチャンスを与えてくれました。 しかし・・・ あれから、私の英語力はどれだけ向上したのでしょうか・・・ そんな中での、今回のドタバタは、4月22日朝のDelimaさんのメールの、ひーさん渡英情報からでした。 絶句・・・ 勝手にComedyのときの状況を想定していた私には、結構衝撃的でした。 GWの高い航空券を買って、ロンドンの高いホテルに何泊もし、おまけにボスに頼みまくって、GW後に二日間の有給をとってまで、 ロンドンに行って、Gillianのサインをひとつもらって来ただけじゃ、シャレにならない。 じゃあ、私はいったい何がしたいんだ? 私は、Gillianとお話がしたい。彼女の気持ちに少しでも触れたい。 でも、この私の英語力と、行きたくても、人をかき分けて出ていくことをカッコ悪いと思ってしまう性格と、 日頃の口ほどになく、肝心なときに萎えてしまう気性では、どうすればよいのでしょうか。 でも、希望はまた、ひーさんの成功例でした。 これは、情報収集と熱意と綿密な計画が必要だと思いました。 英語のご堪能なDelimaさんにも色々と教えていただき、私なりの計画と段取りを立てました。
でも、夕方には雨はやみ、芝居の出入りに傘が必要だったことはありません。 二日にホテルに着いたその足で、Delimaさんと会い、予約していた『スカリーニ』と言うイタリアンレストランで、『スカリーに』乾杯しました。 また、そこで一足先に事を終えたDelimaさんから、色々な実体験情報と助言をいただきました。 そして、次の日「じゃ、がんばってね」という言葉を残して、Delimaさんは帰国されました。 |
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そして、とうとう『その日』がやって来ました。 とにかく、顔を覚えてもらい、私であると言うことをできるだけ早く彼女に認識させることが第一の目標でした。 出待ちの混雑の中で、コミュニケーションをとることが困難だと感じた私は、入待ちをすることにしました。 けれども、彼女は遅れてきたり、携帯で話しながら来たりすることもあるらしく、そんなときには話しかけられないこともあり・・・ そこで、花束を買い、どんな状態でも、とにかくそれだけを手渡そうと思いました。もちろんカードを添えて。 彼女は1時間半前くらいにやって来ると教えてもらったのですが、待ちきれない私は、劇場に開演の2時間10分前に着きました。 しかし、いくら待ってもGillianは現れません。見逃したの? そんなことは絶対にないはず。 その日は、特に寒くて風も強く、緊張と寒さの中での一時間半、本当にどうかなりそうでした。 そして、いくらなんでも遅すぎると思った45分前、その日、一緒だったぺるさんが、Stage doorの受付に聞いてくれました。 すると、Gillianは、今日に限り早くやって来ているとのこと・・・ 初日からとんでもない失敗をやらかしてしまいました。 しかたなく、花束はStage doorの女性に託すことにしました。 「受け取れない、渡せない」と言われるかも知れないと思いましたが、受付の女性は、「必ずお渡しします」と、とても快く引き受けてくれました。
彼女は「誰か書くもの持ってない?」と言う風に手で書くまねをしました。誰かがペンを渡し、彼女は下を向いて、黙々とサインをこなして行きます。 話しかけなければ、何も言いません。 プレゼントをもらうと、顔を上げて笑顔で「Thank You.」と言い、そのままその袋を後ろでガードしているセキュリティの人に渡します。 そして、私の番になったとき開口一番に聞きました。「私からの花束、受け取ってもらいましたか?」 すると、Gillianは顔を上げ、「あなただったの。きれいなお花をありがとう。」 「あなたのお芝居を見るために、休みを取って日本から来たんです。」 「そう、どうもありがとう。ロンドンにはいつまで居られるの?」 満面の笑顔で、「Thank you!」と答えてくれるGillianを前にして、私の頭の中は、とろけて行きそうでした。 「8日まで。だから、I came here tomorrow again.」と、言っちゃいました。 すると、彼女は笑いながら早口で「????????????????????????」 私は理解不能で、「エッ?」って顔をすると、まわりの人たちがドッと笑い、今度はGillianは、はっきりと「Tomorrow is tomorrow.」 そこで、やっと気づいた私が、「I will come here tomorrow again.」と言い直すと、彼女は「All right!」と頷いてくれました。 と言うことで、出来ない英語が、図らずもよい結果をもたらしました。 満座で恥をかいたわけですが、そこは知った人のいないロンドンのこと、日本での人格とプライドは捨てようと、決心してきた私にとって、 サムライの国、地の果てニッポンから来たファンとしての、つかみはOKってとこでしょうか。 |
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次の日、Showの前に待っていると、Gillianを乗せたタクシーは、通りから左折して、Stage Doorの前まで行って止まりました。 私たちは、20mほど前の鉄門の前までしか行けません。あ〜、また今日も失敗? こちらからは、後部座席の彼女の後ろ姿が見えていますが、ゴソゴソしていて、なかなかタクシーから降りてきません。 お釣をもらっているのか?それともカードで支払っているのか? やっと降りてきたGillianに向かって、ひとりの男性が「ジリー、ジリー」と叫びました。 「ジリー」だって・・・ 「Gillian」と呼ぶことさえ、躊躇している私には衝撃でした。 けれども私も、それにつられて、とにかく振り返って手でも振ってくれればと思い、「Hello! Gillian!」と叫びました。 すると、なんと彼女は歩いてこちらに戻ってくるではありませんか。 Oh! My God. あなたはなんていう人なの、Gillian。それだけで、胸が熱くなりました。
すると、私の隣にいたぺるさんが、「それ、私です。」って言ったんです。その言葉は、昨日ぺるさんが渡したプレゼントの内容のことだったのです。 そう、Gillianは、私とぺるさんを混同しちゃってたわけです。 結局、私はスクリプトにサインをもらっただけで何も話せませんでした。 でも、とにかく日本人が来ていて、プレゼントをもらったってことを認識しているということはわかりました。 イイぞ、イイぞ。その調子。
気分が悪いの? 具合が悪い? 芝居を見ている限り、そんな風ではなかったけど・・・ 役作りのためだとは言え、かつて見たことがないほどの痩せ方が、脳裏に浮かびます。 1ヶ月以上、あんな張り詰めたテンションの芝居を毎日して来た、彼女のことが心配でなりませんでした。 この劇場には他に出入口はなさそうだし、気分が悪くても、うちに帰るには、必ずここを通らなければならず、 ファンサービスはしなくても、タクシーか誰かの車が迎えに来るはずで、一目みたいと思い30分ほど待ちましたが、出てくる気配はありません。 仕方なく後ろ髪を引かれる思いで、地下鉄に乗りました。 |
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Gillianが倒れて休演、なんていう最悪の状況が、頭から離れませんでした。 昨日声をかけてもらい、挨拶をかわしたBevが既に来ていました。Bevに「Gillianは大丈夫なの?」と聞きましたが、答えは「I
don’t know.」
おまけに地下鉄駅の入り口の隣にあるので、待ち合わせの人たちが一杯います。 そんな状況で、Stage doorに入っていくGillianを見逃しては大変と思い、タクシーが止まるたび、中を覗き込み、 それが金髪の白人女性だと、ドキドキして身構えるのですが、一向に彼女は来ません。 そして、開演1時間前のことです。私が一瞬左を向いているときに、右側から誰かが「Hello!」と声を掛けて来ました。 フッと振り返ると、なんとGillianその人でした。 キャー、私のこと覚えてるぞぉ。あっちから、声かけてくれたよ〜。それにしても、歩いてきたのかぁ。いつもながらの、予測不能の行動! 他に待っていた人たちにサインをしている彼女に、昨日のことが心配だったので、「大丈夫?元気?」と聞くと、 「Thank you. Fine. How are you?」と平気な顔で答えました。 挨拶してんじゃないよ、昨日のこと心配してたんだよ、と思いましたが、とっさには何も言えず、バカみたいに「I’m fine.」と答えてしまいました。 昨日のキャンセルはなんだったの? 心配していたのに・・・ただのサボリ? そして、サインを終え、こっちを向いてくれたので、日本から持って来たお土産の袋を渡しました。 幸い側には、一人のオジサンしかいなかったので、「開けてみて」と言うと、 彼女は袋を開け、中身を取り出し、「Oh! Beautiful.
Thank you.」 それは、背中と胸と腕のところに桜吹雪の刺青の模様がプリントしてあるTシャツで、(要するに、着ると遠山の金さんになってしまう) 私が、ポツポツと「これは日本の典型的な刺青の模様で・・・」なんて、説明している間、彼女は真剣な顔で聞いていました。 「日本の刺青模様を知ってる?」 「Yeah, I know.」 (さすがTattoo好き) 「ひとつ注意があるの」 「なに?」 「・・・・・・・・・・」 (すぐに言葉が出てこない私) 「Washing?」 「No.・・・・日本では、絶対に着ないでね。なぜかって言うと、Japanese
Mafiaだと思われちゃうから。」 Gillianは、ギャハハハと声を出して笑いました。ついでに隣で聞いていたオジサンにも受けました。 「わかったわ。いい考えね。日本では着ないようにするから。ありがとう。」 そして、そのTシャツの入った、Shopの名前が「衣」と大きく書いてある紙袋を提げて、Stage
doorには向かわず、 劇場の階下にあるBarに向かうべく、階段を降りて行こうとしました。 そしてドアを開けながら、ふっと振り返り、笑顔で、「?????????????????????????
Japan.」と言ったのです。 とっさのことで聞き取れず、そして聞き返す間もなく、階段を降りて行ってしまったので、結局意味不明です。 何か大事なことを聞き逃したような・・・ 最後の言葉は絶対Japanだったのですが。 「I wanna go to Japan.」? いいえ、もっと長かったような。 皆さん「??????????????? Japan」の ????? 部分をお好きな言葉で埋めてみて下さい。 |
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入りは、日によって違いましたが、1.2階は6〜8割の席が埋まっていたようにみえました。
襟ぐりが結構開いた、長袖の黒のTシャツ。途中でその上に、薄い水色の長袖のセーターを着ます。 だから、始終ヘソ下のおなかが5pほど見えているわけです。 足元は、これも黒のゴムゾーリ。アクセサリーは何も付けていません。ピアスもリングも。 でも、途中で着ていた水色のセーターを頭から脱ぐのですが、そのときに下の黒Tシャツも一緒に上がってしまうため、おへそが見える訳です。 一瞬のことですが、四回とも見逃しませんでした。だって、へそPを見ることができるのですから。 それから、舞台の前方で、Scullyのようにガバッと足を開いて椅子に座って演技をするという場面があります。 そのとき、黒いパンツの裾が上がるので、立っているときには見えない、右足首のTattooを見ることができます。 カメだという話だけど、どこがどうカメなのか、私にはわかりませんでした。 普通の格好だけど、結構露出部分が大きいので、彼女の素肌がよく見えます。 外で会うときは、至近距離だけど、コートを着ているので、頬がこけている以外は、あまりわかりませんが、 舞台上では、鎖骨や腰骨をはっきり見ることが出来ます。 ほんとに痩せていました。首の筋もはっきりわかります。あの腕も、細く細くなっていました。 ガンの時のScullyより、何より、かつて見たことがないほど細いです。 妊娠しているのでは、と間違われるほど、ポチャポチャしてたのは、去年の今頃だったのでは? 役作りとはいえ、さすがのプロ根性には、敬服いたしました。 私と言えば、何の予習もせず、英語の芝居を見ると言う暴挙に出たわけですが、回を重ねるごとに、少しずつ理解できるようになりました。 日によって、演技が違うのもわかりました。観客の反応も毎日違いました。 芝居の間の半分くらいは、目を潤ませているのですが、それがスポットライトに照らされると、どんなに美しく輝くことか。 私の見た中では、観客は四回目が一番よく反応していて、カーテーンコールもその回だけ三回でした。 おまけに、口だけで、投げキッスまでしました。(あとで思えば、その日に来ていたらしいPiperに向けてのものだったようです) でも、彼女の芝居自体は三回目が一番だったように思います。役への入り込み方が、格段に違いました。 その日は、激情した場面で、その目から涙がポロポロと零れ落ちていました。 畳み掛けるようなセリフの場面では、口からツバが飛びまくっていました。 興奮して怒る場面では、顔が真っ赤になり、こめかみに青筋がたっていました。 その迫力に、私は鳥肌が立ちました。 そう思ったこと、英語のわからない私もそう感じることができるということ、 そして、そんな私にも、あなたの演技は、そう感じさせることができるということを、ぜひ彼女に伝えたいと思いました。 |
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その方が周りに人が少なくて、話しやすいように思ったからです。 外に出ると、正面玄関のバス停あたりで話している二人の男性のうち、黒いコートの方をどこかで見たことがあるような気がしました。 あっ、あっ、Mr. Julian Ozoneだ。ワー、見ちゃった、見ちゃった。と一人で心の中で叫んでいました。 そのうち、Gillianが出てきてサインを始め、私は写真を撮っていると・・・ アラアラという間に終わってしまいました。 私は結局、話せず仕舞いでした。 彼女は「これ誰の?」とペンを持った手を挙げましたが、誰も返事をしないので後ろを向いて、それをポーンと放り投げました。 粋なことをするじゃない。何をやっても、カッコいいんだから。 そして、友達らしいきれいな女性と二人で並んで、Mr.Ozoneの方に歩みよって行きました。 Gillianたちが近寄ったのに、二人の男性は気づかず、道の方を向いて、話し込んでいました。 すると、Gillianは背後から、こちらにも聞こえるような大きな声で「ジュリィー?」と彼を呼びました。 振り向いた彼に、友達の女性を紹介しているようで、彼と彼女は「Nice to meet you.」という感じで握手をしました。 そのあと、連れ立って四人は歩いて去って行きました。 でもGillianらしくなく、彼とハグするわけでもなく、キスするわけでもなく、腕を組むでもなく、結構あっさりしていました。 帰りの地下鉄の駅で、Bevに会ったので 「彼が Julian Ozone?」と聞くと 「そうよ」 「よくお芝居見に来てるの?」 「今まで二回だけ。下のBarで飲んでるのは、時々見かけるけど。」 「ふーん」 そうか、今日は彼の車で送ってもらって来たんだ。 あーあ、なんだか、ちょっと淋しい気持ちで、ひとりで帰路に着きました。 |
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正面の階段のところで、彼女たち二人が話していたので、私は角を曲がったところで一人で待っていました。 6時15分頃、Gillianは一人でタクシーに乗ってやって来ました。 Bevを見つけると二人は、角のところで話し始めました。 楽しい話って感じではなく、打ち合わせのように、真剣に結構長い時間、話をしていました。 私はすぐ側に立っていたのですが、声は聞こえても、早口の二人の会話の内容は全く理解できませんでした。 西日が逆光になって、Gillianの顔を照らしていました。 ドキドキしている一方で、不思議と冷静に、その横顔をボーッと眺めながら、 「白人って顔の産毛が結構濃いんだなぁ」とか、「まるでアイメークの見本のような形の目だなぁ」とか、そんなことを思っていました。 その間にBevと話していた女性は、Gillianに「冷やして食べてね」と言って紙袋を渡し、 二言三言話して、最後に「気持ちよさそう」って言って、彼女の黒いコートを触りました。 その自然で親しげな仕草を、とても羨ましく思いました。私は、バカみたいに口を開けて見ていたのかも知れません。 そして、またBevと話し始めました。さっきの調子で。時間がなくなるよ〜 無視されるんじゃないかと、気が気ではありませんでした。 でも、その会話もやがて終わり、Gillianは振り返って私に向かい、笑顔で「Hello」と言ってくれました。 「今日は何?」って感じの、とっても優しい笑顔でした。私が横で待ってたのを、ちゃんと気づいてくれてたんだ。 昨日の夜に言おうと思っていたことを言わなきゃいけない。 「あのね・・・ I think・・・ 昨日のあなたの演技はすごかったです。」 「ありがとう」 「私はあなたの英語の台詞を全部理解できるわけではないけど、それに、私の感じていることをうまく英語で言えないけど・・・ とにかく、とても迫力があってすごかった。感動しました。」 「今日はもっとよくするからね。楽しんでもらえて私もうれしいわ。」 そして、念を押すように自分の左手を胸に当て、「I’m good.」と言いました。 「舞台の上で、スポットライトを浴びたとき、涙で潤んだあなたの目が輝いてすごくきれいなの。」 「ほんとう? ありがとう。」 Showの話をすると、すごく嬉しそうでした。 台詞もわかっていない私ごときが、Gillianに演劇評?をするのはどうかとも思ったのですが、ただ、私なりに感じたままのことを言いました。 もっと、語彙があればと、とても残念です。 でも、その話をしているときの彼女の受け取り方は、明らかに他の話しをしているときとは違いました。 私の言っていることが、見当はずれではなく、彼女もその回の自身の演技に満足していたのではないでしょうか。 その話しをしたあと、彼女との距離がグッと近づいたように感じたのは、思い過ごしでしょうか。 |
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5月7日 開演前のこと つづき “In English ?” そして、もうひとつのプレゼントを渡しました。 Gillianという名前を漢字に当てて考え、それを何十枚かの千社札にし、小さな箱に入れたものです。 実は今まで渡してきた、すべてのものの包みや袋に、その千社札と、私の名前の千社札を貼り付けていたのです。 その箱にも貼った二つの千社札を見たとたん、Gillianは、「ああ、これ」と言いました。ちゃんと見てたな。仕込みはOK。 「私の名前は、日本語でこう書くの。」 「Yeah」 「これはGillianって、日本語で書いてあるの。」 「Yeah」 彼女は興味深そうに、私の手元の箱を覗き込み、いちいち「Yeah」と答えます。 そして名前の上の、『無病息災』という文字を指し、「これは、どういう意味なの?」と聞きいてきました。 予測していないツッコミに、私がとっさに「Good
health」と答えると、「そうGood healthね」と納得してました。 「この文字にはひとつずつに意味があるの。でも今、説明してる時間はないから、説明書を書いてここに入れたから、」 「どこ?」 「これ、Explanationって書いてるでしょ。」 「ええ、わかったワ」 「だから、後で読んでね」 「In English?」 「Yes, my poor English.」 「そんなことないわ。だいしょうぶ。ちゃんとわかるわよ。ありがとう。」 「実はね、もう明日、日本へ帰らなきゃ行けないから、今日はShowが見られる最後のチャンスなの。」 「そう。じゃあ、最後まで楽しんでね。来てくれて本当にありがとう。」 と言って、Gillianはぎこちなく頭を下げました。 私は思わず黙って右手を差し出しました。 すると、彼女は、自分から私に近づいてきて、咄嗟に右手を出そうとしたのですが、 右手に荷物を持っていることに気づいた様子で、あいている左手を出して、私の右手をギュッと握ってくれました。 その感触は、冷たくも暖かくもなく、でも結構柔らかかったような。 ドキドキしながらも、かろうじて、「こちらこそ、色々とありがとう。また、あとでね。」とだけ言えました。 |
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キャーキャーという感じの女の子のグループが多く、Gillianと一緒に写真を撮ったりしていました。あんなのありなの?知らなかった。 とにかく、Gillianのそばに行かなきゃと思い、人ごみに入って行きました。 私がそばまで行ったとき、彼女は下を向きながら、黙々と次々に差し出されるサインをこなしていました。 「Gillian! あのExplanation読んでくれた?」 すると、彼女は、ハッと顔を上げて、 「Oh! You! Yes, I did. I
like that. ????????????????????????????????????????????????????」 えっー、何て言ったの。そんなに長い言葉をそんなに早く言っちゃ、ダメでしょうが。 聞き返す間もなく、人ごみに紛れて、だんだんGillianが遠ざかっていく・・・ すると、彼女は大きな声で、 「You will !」 「Have a nice travel !」と、叫んでくれました。 私の書いたExplanationを読んでくれた! 私が明日帰ると言ったことを覚えていてくれた! 飛び上がるほど嬉しかったのですが、私は「Thank
you.」と答えるのが、精一杯でした。 それで充分満足なのですが、どうも又、肝心なところを聞き逃したような。 ニュアンス的には、何かほめてくれていたような気はするのですが・・・ 説明書に書いた、漢字で作ったGillianという名の意味が気に入ったと言ったのか、 それとも、もしかしたら・・・ あなた、英語上手に書けるじゃない、というようなことを言ってくれたのか。 (話せないのに書けるのは、彼女にとっては不思議なことでしょうから) それと、「You will.」が何を意味しているのかが、不明なままです。 口調から、次の「Have a nice
travel !」とつながっているとは、思えないのですが・・・ 今から思うと、Gillianは、本当に「さよなら」を言ってくれたのです。 でも、私は「ショーは見られないって言っただけ、明日また会いに来るぞ。」と思っていました。 やはり、正直に言うべきだったのかもしれません。 |
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やはり土曜日、マチネの前なのに、10人以上の人が待っていました。なぜか、今日はオタク系の男性が多い。 Gillianは遅れてきました。開演までもう一時間を切っていました。 時間がないようで、焦っている彼女のもとに、サインを求める人が集まり、しかし誰も彼女に話しかけようとはしません。 無言でそれを終えた彼女に、「Hello, Gillian!」と声を掛けると、 「えっ、あなた、もう帰ったんじゃなかったの?」 「まだ少し時間があるから、あなたに『ありがとう』だけ言いに来たの。」 「Okay! Sorry, one minute.」 そう言うと、彼女は私の目の前に立ち、私の目をジッと見て、私の言葉を待っています。 ・・・彼女の目がそこにありました。 つまりながら、どもりながら、話し出した私の拙い英語を、決して視線を離さず、一言一言に「Okay」「Okay」と頷きながら、根気よく聞いてくれました。 その途中に一人の男性が、彼女の手元にサインの為の写真を差し出しました。 すると、彼女は私から目をそらさず、「Wait !」と言って、その男性を手だけで制しました。 思いも寄らぬ展開でした。 Gillianとのその時間は、彼女に言われたように、一分間もあったのか、なかったのか。 内容的にも、状況的にも、まるで小さな子供がお話を聞いてもらっているような、そんな様子だったに違いありません。 けれども、私は今まで誰かに、あんな風に真剣に話を聞いてもらった記憶がありません。 まして、私は彼女の友達でも家族でもなく、彼女にとっては、ほぼ初対面の一ファンでしかないのです。 そんな私の言葉と気持ちを、大切に受け止めてもらっているという実感がありました。 そして、反省しています。私は、今まであんな風に人の話を聞いたことがあるだろうか? と。 Gillianは、いつもジッと相手の目を見つめて話しをします。 それは、私は今あなたと話しをしているということ、そして、その気持ちを受け取ろうとしているということ、 あなたを理解しようとしているのだということを、証明するかのようでした。 あの、輝くばかりに光る力強い碧い目に見つめられると、恥ずかしくても何でも、視線を外すことができません。 その『目の力』とは、いったい何なのでしょうか。意思の強さ、その自信の表れなのでしょうか。 そしてまた、あの瞳に見つめられると、吸い込まれて行きそうな感覚に襲われます。 それは、雪の降り続く冬の空を見上げたときと同じ感覚でした。 |
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その出来事から、わずか五時間後、私は日本に帰るべく満席の飛行機のシートに座っていました。 何をしていても、Gillianの声が、ずっとずっと聞こえていました。それは、Scullyのときより高いけれども、キレのある、少しかすれた声でした。 映画を見る気も起こらず、スクリプトはスーツケースの中に入れてしまい、手元にないので読むことができず、落ち着きませんでした。 記憶が薄れないうちに、ロンドンでの体験を、そして、今後の人生において私の宝物となるであろうGillianの言葉を書き留めておこう。 そう思った私は、テーブルを倒し、バッグからノートを出して広げました。 頭の中で、めちゃめちゃになってグルグル回っている、彼女の言葉と仕草を、 毎晩付けていたメモをもとに、ひとつひとつ組み立てながら、その出来事をできるだけ忠実に、日を追って書いていきました。 そして、最終日の「Sorry. One minute.」まで進んだとき、ふいに涙が溢れてきました。こんなところで泣いてはいけない。 幸い隣の席のオーストラリア人の女の子は、ぐっすりと寝込んでいました。 でも、アテンダントに見つかって、「お客様、いかがなさいました?」なんて言われようものなら、なんて答えればいいの。 早く、この涙を止めなくてはという思いとは裏腹に、涙はとめどなく流れてきます。 どうしようもなく、ただ座っているわけにもいかず、席を立ち、最後尾まで、そしてまたビジネスクラスのカーテンの前まで、通路を何度も往復し、 トイレに行き、ジュースを取りに行き・・・そのうちになんとか涙は止まってくれました。 こんなに涙を流したのは、いつからなかったのだろう。 それは緊張からの開放感なのか、ロンドンを去る淋しさなのか、Gillianが示してくれた誠意への嬉しさなのか。 |
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欲を言えばキリがありませんが、今の状況下で、私なりに最善を尽くし、充分に満足できた今回のロンドン旅行でした。 「Thank you!」と言ってくれたときの、あの可愛い満面の笑顔を目前で見ることができたこと、 そして、私の目をあの輝くばかりに綺麗で力強い瞳で見つめてくれた、その事実だけでも、遥々ロンドンにまで行った甲斐は充分にありました。 その上、彼女にたくさんの大切なことを教えてもらい、彼女との会話の中で多くのことを学びました。 それは、私自身の英語力のこと、言葉を交わすことの意味やその力、そして、気持ちを伝える上で、それらを超えるであろう人としての大切なこと。 彼女が何を思い、私たちと会い話してくれるのか、そして、本当はそのことをどう感じているのか、私にはわかりません。 しかし、ひとりひとりのファンの言葉や気持ちをあんなに誠意をもって受け止めてくれるGillian Andersonという人は、 確かに人並みに長所も短所も持っているには違いないだろうけれども、とてつもなく大きな人であることに間違いない、と思いました。 そんな中でも、返す返す残念で仕方のない唯一のことは、せっかく彼女が話してくれた言葉を理解できなかったことです。 彼女の前で、とにかく話すことに必死な私は、全神経をそれに集中させてしまいます。 それを言い終わってすぐには、頭の中をリスニングに切り替えることができません。 彼女は、私が聞きとれなかったことに気づくと、必ずもう一度言い直してくれるか、簡単な言葉に直してくれます。 たいていの場合、単語のすべてがわからなくても、ひとつの文として、何を言おうとしているかはわかりました。 けれども、状況によって聞きなおすことが出来ないこともありました。 そして、その結果、いくつかの理解できなかった彼女の言葉が残りました。 日本語には、『言霊』という言葉があり、英語の言葉にも、その魂は宿っているに違いありません。 そして、また、会話はキャッチボールのようなものだと思います。 彼女と私の二人きりの会話の中で、私が受け取れなかった彼女の言葉は、どこへ行くのでしょう。 受け手のいないそのボールは、ポンポンポンと舗道の上をバウンドし、転がりながら道路を横断して、 今も、あのSloane Squareのプラタナスの木の根元で、誰にも気づかれずに、雨に濡れているに違いありません。 その可愛そうな言葉を拾い集めに、英語を勉強し直して、もう一度、必ずあそこへ行かなければならないと思っています。 図らずも、彼女の前で宣言した、「I will come here tomorrow again.」
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