美しい言葉・暖かい言葉
今日久しぶりに庭に出て見たら、もう椿のつぼみがふくらみ始めていました。
こちらはようやく冬支度を整え、ますます体の縮こまる季節だというのに。
赤い椿 白い椿と 落ちにけり
河東碧梧桐
そんな情景を庭に見たくて、家を新築してまもなく、赤と白の椿の苗を植えたのです。でも失敗でした。私が買い求めたのは、赤と白の品種が違ったせいか、赤のほうが先に
咲いて先に散り、そのあと白が咲き始めるのです。世の中思い通りにならないものです。
花はどんなに美しく咲いても、まわりの花と競おうとはしないし、早く咲こうなんて思わない。赤い花と、白い花が、ほんのわずかの差で、はらっ、と落ちる瞬間の美、自然に出きたその場の情景こそ、美しいのですね。無理に作るはだめですね。そしてその感動を出きる限り伝えられる言葉こそ、美しい言葉なのですね。
庭の椿は、まだそんなに大きな木ではありませんが、赤い椿も、白い椿も、時期が来ればそれぞれに重たいほどの花をつけ、精一杯咲き誇ります。
極められた美などない雑然とした庭で、すこしずつ大きくなって行く木々。赤は赤で趣があり、白は白で味がある。並んで咲かないのを失敗と見たのはこちらの勝手で、これがうちの庭の自然な姿で、これがうちの椿の咲き方です。
たとえばこんな、つぼみが膨らんだ程度の何気ない日常を切りとって、子供たちにも伝えてあげたいと思うのです、季節の移ろいや、花びらが落ちる瞬間の美やせつなさを、感じる心が育つようにと。人のやさしさや、ぬくもりや、美しい言葉、暖かい言葉を感じる心が育つようにと。
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