ほたる、光ってるね
龍司がプログラミングを始めて以来、家族揃って同じ時間に寝るという事がなくなったね。下の子達とお父さんは、早く寝てるし、龍司はそのあと家の中が静かになってからが活動時間・・・・・・・夏休みなんか、放っておけば明け方まで打ち続けて、そのままパソコンの下に転がって寝てるなんて事になりかねないから、私も先に寝ろと言われてもそうはいかない。意地でも頑張って本でも読みながら、ストップをかけるタイミングをはかっているけど、“寄る年波に勝てぬ”というやつで、体のほうが知らぬ間に省エネモードに切り替わっていたりして・・・・・・ 気がついてビョョョョーンと回復したモニターみたいに、ちょっとぼけてる事もある。
でも先日、末っ子が甘えるものだから、久しぶりにお父さんと間にはさんで、歌でも歌いながら早い時間から寝転んでいると、声聞きつけて次男までも・・・・・・・それが、にたまには一緒に寝たいと素直に言えないものだから、自分達の部屋は窓が高くて蒸し暑いだとか、蚊がいるだとか、取って付けたような言い訳を、タオルケットと一緒にひっさげてやって来た。がやがや話しているうち龍司もやって来て、
「人が一生懸命難問を解いておるというのに、みんなでこうやって幸せな夜を過ごしておったなんて、ずるいぞ・・・・・・どれ、今日はこのまま寝るとするか・・・・」
などと、ざこ寝を決め込んでしまった。次男のように変に言い訳こねないところは素直でよろしい。
でもおいおい、畳の上でゴロ寝?、あー暑い、こんなに大きくなった子達と一緒では空気もうすい。うーっ、息苦しい、わぁー男くさい!と言いつつも、なんとなく懐かしい気配漂う夏の夜。
「昔はこうやって毎日寝たなぁ・・・・・」
今の家に越して来る前、小さな家で六畳一間にみんなで寝てた・・・・・
もう十年近く前のこと。
久しぶりにみんなで横になって、
「これはなんや、川の字じゃあないし、州の字でもないし・・・・」
「吉本の本の字や!」
そうだなぁ、寝相悪くて、とても川の字のようにお行儀良くない。あっち向いたりこっち向いたり交差したりして寝るから吉本の本の字か、なかなかうまい事を言う。
「そういえば、ほたるがない、ほたる!」
「うん、そうや、ほたるがない」
「ほたるって、もう時期すぎたんか?」
「もう今年は遅いかな・・・・・」
「だけど、あのほたる、長いこと生きとったなあ・・・」
「よく光ったなあ」
「うん、きれいやった・・・・・すごいきれいやった」
みんな幼かった頃、毎年ほたるの飛び交う季節になると、山奥の田や沢まで見に行ったんです。手掴みで取れるほどたくさんいるので、五〜六十匹捕まえて、玉葱なんかが入ってる大きめのナイロンネットの中に露草と一緒に入れておき、それを部屋の蛍光灯の紐にゆわえて吊るし、電気を消すと、ほたるがちかちか光りだして、それはものすごく贅沢なシャンデリア。その下で童謡を歌ったり、話しをしながら眠ったのでした。
ほたるの光はやわらかく、深夜まで子どもたちの寝顔をほのかにてらし、ゆっくりとうちわなどあおぎながら、昼間の喧騒もほっと一息の心地。あー、本当にきれいだったね。子どもたちもその美しさを忘れずにいてくれた事がなんとも嬉しい。
朝、紐をほどいて、袋ごとすこし打ち水をして涼しい所に置いてやり、露草がしおれると替えてやり、夜はまた布団の上に吊るすのですが、あんなか弱い生き物でも、慈しんであげればニ週間くらいは生きていました。最後のひとつふたつになっても、まだ長く光り続けた事もありました。
狭い部屋で、ほたるのともしびのもと、親子五人ざこ寝して、ほんのささやかな夏の楽しみ。そのほたるが、こうしてまた家族寄り集まった空間に共有の想い出として淡い光を放ったよう。
いつしか、ほたる狩りにも行かなくなり、毎夜カチャカチャとキーボードを打つ音があたりまえとなっていたけど、たまにはこういうのもいいね。プログラミングの疲れを癒すには、童心に帰ってみんなでゴロ寝。静かな夜に、寝転んだ闇の中に、まだ光ってるね、あのほたる・・・・・
みんなの心に、いつまでも光ってるね、あのほたる・・・・・
ほーほー ほーたる こい。こっちの水はあーまいぞ・・・・・
うちの水、甘過ぎるね。甘過ぎてダメにならないかと、不安もあるけど、まあいいや、今のうちに思いっきり甘えろ。さまざまな困難や障害に対して、ナイフで突き刺したい衝動を自制させるものは、ほたるほどの小さなともし火が、自己の中にあるかどうかだったりする。この家で互いに助け合い、励ましあう事は、そのともしびにならないだろうか・・・・・
この家は、疲れた時、苦しい時、いつでも甘い水でのど潤せる泉でありたい。それはこの先龍司達が遠く離れても同じこと。お母さんはこの泉が、いつ戻っても満々と水を満たしているよう努めよう。
心も体もしっかり癒して、また一回り大きくなって、でっかい仕事やってのけろ。うちでたくさん甘えた分だけ、外でしっかり役に立て。
もっとも、龍司のプログラミング、ちまちまと細かいのばっかり、これもまた、ちょうどほたるの光のような・・・・・・小さくても、闇夜にまぎれないで光ってよ・・・・・
山あいの、小さな沢の無名のほたる、もっともっと光ってよ。小さくてもみんなに愛される光であれ。いつまでも記憶に残る光であれ。
ほーほー ほーたる こ い ・・・・・・・・・
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