吉本新奇劇
登場人物
父
母
息子
舞台 台所
息子 「おい、腹へった、何かないの」
母 「何んにもない、納豆でも食べとく?」
(母、言いながら、手近にあったパック入りの納豆にスプーンを添えて息子に渡す)
(息子、受け取ってその場でしょう油をかけて食べ始めるが納豆がすべって、口元から足元まで糸を引いて落ちる。
そこへ父登場)
父
「おい、なんじゃよ、情けない、そんなことじゃ、ユリ・ゲラーみたいになれんぞ!」
(一瞬、全員沈黙。息子意味がわからず、糸を引いたまま、目で母に、父の言動に対する解説を求めるしぐさ。それを受けて・・・)
母 「ユリ・ゲラーという人知らないの?」
息子 「知らん、誰、それ、何する人?」
母
「昔、テレビではやった、超能力でスプーンを曲げるという人のこと。アメリカだったかなあ、やって来て、やたらスプーン曲げて帰って行ったけど、今、何しているかはわからん。でも、長年連れ添った感というやつで解読すると、どうもお父さんが言いたかったのは、ユリ・ゲラーではなくて、ビル・ゲイツ・・・・・・だと思う。ビル・ゲイツと言うつもりが、何らかのバグで文字化けして、ユリ・ゲラーになったんじゃない?」
父 (ずぼし、という表情でにやけながら、声を大にして抵抗)
「ユリ・ゲラーも、ビル・ゲイツも似とるやないかよ、それより、なんじゃ、そのみっともない食い方は・・・・」
息子 (あいかわらずパックの納豆をすすりながら首をかしげつつ)
「似とらんぞ、ユリ・ゲラー ―――― ビル・ゲイツ えーっ、どこが似とるよ? スプーン曲げれってかよ、よっしゃ、スプーン曲げの練習するぞーっ! 」
(息子 使っていたスプーンをこれみよがしに、父の目前にかかげて、スプーンの首をこするしぐさ)
父
「スプーン曲げでもいいけど、世界の長者番付にのるぐらいになったら、お父さん、こずかいもらって、朝から晩まで、パチンコ屋にでもいっとっていいかな?」
息子
「そんなせこいこと言うなよ、パチンコ屋の一軒やニ軒、店ごと買ってやるで。だけどスプーン曲げるのもむずかしいなぁ、なかなか曲がらんぞー」
(父、立場悪くなったとみて、新聞を持ってトイレに消える)
幕
平成9年12月8日
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