• 時事放談 『む! わが家もノーパンしゃぶしゃぶ!?』




       龍司が六、七才の頃のこと、動物図鑑、子供百科など、ちょっと厚めの本を三、四冊重そうに抱えてきて、ミシンを使っていた私のかたわらへどさっと置くと、
      「ねえ、どこにも書いてないのよね。なんでかなー・・・・」

       私 「何 ? 」
       龍 「あのさぁ、哺乳類は交尾して子孫を残す・・・・・ そうやったら?」

       私 「うん」
       龍 「人間は哺乳類である。・・・・・これも正しいよな?」

       私 「うん」
       龍 「じゃぁ、人間も交尾して子孫を残す?
         ・・・・・・・
         このことがどこにも書いてないのよ。どうしてかなぁ・・・・・」


       子供にしてはあまりにも理路整然とした、この三段論法による質問に、ふいをつかれて私たじたじ・・・・・・止めていたミシンをあわてて動かして、
      「さあ・・・・・・どうかなあ、人間の場合は交尾とは言わんけど・・・・
      うーん、どうかなぁ・・・・なんていうか・・・・・・」

       だんだん声はぼそぼそとなるし、これ以上待っていてもまともな答えが期待できないと判断したのか、また本を抱えこむと立ち上りながら、
      「おかしいなあ、何で書いてないのかなー。 お母さんが知らないということは、じゃあ、交尾する人としない人といるのかなあ・・・・・・」
       とぶつぶつ言いながら戻っていったのですが、その回答は何んとなく機会を逸してそれきりになりました。

       さて、最近世の中を賑わせていた、アメリカ大統領の不倫疑惑について、
      「クリントンも、みのもんたに電話して相談してみんのかなぁ、浮気がばれそうなんですけど、って・・・・・」
       なぁーんて冗談を言うところを見ると、そういうことは人並みに自主学習が進んでいるようです。
       親はなくとも子は育つ。親がいないと子は産まれないのですが・・・・・でもクローン技術がもっと進歩すると、龍の言うとおり交尾しない人の子も世の中に誕生したりして・・・・・何から何まで親と一緒というのはちょっと恐ろしい気がします。
       どんなふうに成長するのか未知なところが、育てがいというもので、親の能力をさておいて、たいがい過剰な期待をするものですが、その期待はことごとく裏切られ、結局自分たちの短所ばかりよく受け継いでいたりして・・・・・
       おかげでうちは、一家揃って上品な生活にはほど遠いようです。




      「おーい、ごはん食べるよーっ」
       とみんなを夕飯の食卓にさそう。
       ひと足先にお風呂に入っていた三男、雅史。遅れを取るまいとあわてて飛び出してきて、
      「ねえねえ、ノーパンしゃぶしゃぶって、どんなしゃぶしゃぶなの?」
       見れば、素っ裸のまま、もうお茶わんと箸を持って正座して、すまして食べ始めている。
      「それってマー君みたいに、ノーパンで食べる人のことよ。お行儀悪い!風邪ひくよ、早く服着てから食べなさい!」
      「えー、肉の名前じゃないの?松阪牛とか、飛騨牛のしゃぶしゃぶとか・・・・」

       そうなんだぁ ――――― ニュースなどで聞いて子供心に、高級国産ノーパン牛とかいう特別なものを食べさせてくれる店のように想像していたんだ。やっぱり高そうで、東大出の高級官僚の口にしか入りそうにないや・・・・・

       お父さん、
      「今日はうちもノーパン焼き魚とノーパン茶碗蒸しか・・・・・・
       そんなもん見たくないで、早く服着ろよ!」

       その時、黙ってごはんを食べていた次男が
      (俺は本当は何の事か知っとるぞ)
      と言わんばかりに、にやっと妙な笑いを浮かべたことを、私は見逃しませんでしたが・・・・・・

       しゃぶしゃぶではありませんが、吉本家旬の食卓でした。

      平成10年2月19日

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