耕してはいるけれど・・・・・心配!!
龍司の勉強のやり方は、興味を持ったことはとことん調べないと気が済まなくて、効率よく、要領よく勉強しているとはとても思えない。理屈では、充分理解しているつもり、うんこれでいい、これでいい、と。
でも、中三ともなると世間では、塾だ、業者テストだ、受験問題集だと聞こえて来るので、やっぱり心配せずにはいられない。
問題集くらい毎日少しづつでも、やってごらんよ。
「勉強はする、勉強はするで大丈夫。
でも、暗記力だけをためすような勉強はいやなのよ・・・・・
だから業者テストなんて受けんし、問題集もいらん!
学校で教科書でやる事ってさぁ、コマーシャルのキャッチコピーみたいなもんなのよ・・・・においひかえめ、とか、甘みあっさり味とか・・・・・で、どんな味かなぁと思ってちょっと食べて味わってみたいんやけど、試食しとるとどんどん先いっちゃって、味わっとる暇ないのよ。だから、味もわからないままただ、これは甘みあっさり、とかすっきりとか暗記しときゃいいんやって言われて、なんにも面白みがない・・・・・勉強ってそういう事じゃぁないと思うのよ。
今の勉強は表面だけっていうか、奥行きがないって感じ・・・・・・流れとか、関連する事とか、調べたりする事がおもしろいのに。年号なんかおぼえて何になるっちゅうに、およそそのあたりっておぼえときゃあ、本当に正確な数字が必要になった時、図書館とかインターネットとかで調べりゃいい。こういう事はこうやって調べる、とか、こういう情報はどこどこに多くあるとか、誰だれがこういう事に詳しいとか、情報入手の方法をいろいろ体験しておく事のほうが、大切やと思うんやけど。いろんな事に応用できるし・・・・もっと範囲をせまくして、本当に大事な事だけ、深く教えてほしいのよね。
だいたい、千年も千五百年も前の事、数字が一やニ違っただけで、ばつにされて、それが今の生活にどれだけ支障があるのか・・・今いっくら正しく覚えておいても、学校出て忘れて、本当に必要なときにわからんようじゃね。調べる力さえ身に付けときゃあ、単純な事から、うんと奥深い事まで、居ながらにしてわかる。これからはそういう事の方が重要になってくると思うのよ」
(教育討論のコメンテーターにも向いているかも?)
理想論はそうだけど、でも、現実には実力テストも迫ってるし・・・・
「今のところ何とかなっとる。学校はちゃんとやっとる、宿題は休み時間に片付けとるし、ノートも提出しとるし、発言もするし(・・・・うるさいくらいだろうな)これ以上何を頑張れっちゅうんやよ、ごくごく普通にこつこつやっとる。
実力テストは実力をためすためのもので、急に勉強してどうなるってもんでもない。今までの実力をためしてもらえばいいし、それでだめだって言われれば、それでもいいし・・・・まあ、今までもこうやってなんとかなってきたんやし・・・・・・」
今なんとかなっとるって言っても、うさぎと亀のたとえもあるし・・・・・
「大丈夫、だいたい僕は初めから、そういうレースには参加しとらん。だから、うさぎにもならんし、亀にもならんし、龍は龍」
ははー、ごもっとも。
親が子に諭されることも我が家ではままあること。龍の言うことも一理ある。
言われてみれば、誰もみな子供たちに仕向けてレースをさせていたわけではないが、知らない間にゼッケンをつけさせて親は旗を振っているようなありさま。
幼い頃の、なぜ、何、どうしての好奇心一杯の目、真新しいノートに思いっきり大きな字が書けた時の喜びの表情、そういうものが、そのままストレートに親の喜びだった頃の事を忘れ、数字的な評価にしか、目が向かなくなってしまっている。
私は、グランドのトラックの中に、龍司がどの辺を走っているのか、捜していたのかもしれない。少しでもはやく走って来てくれるようにと期待していたのかもしれない。けれども龍の、「始めからそういうレースには参加しとらん」との言葉に気付いて見れば、龍は今まで、レースになりそうもないような、でこぼこ道、狭い道、曲がりくねった道を大いに楽しみながら、道草しながら歩いてきて、どうやらそれは、これからも変わらないような気がしてきている・・・・・・
けれども・・・・・けれども、現実にこういう受験制度がある以上、この時ばかりは、なんとか普通の流れに沿って通り抜けてもらいたいもの。いつの時代も、子はなにかしら変革を望み、親は中庸を願う。今はただ合格を祈るしかない、無能、無力な母親。無欲にはなれない母親。
「今日はひとつ、学校教育について朝まで生討論でもやるか?」
と、冗談まじりに言う龍司。思春期になれば、寡黙になるものと思い込んでいたのは私の大きな間違いで、学校問題から、行政改革、株価の変動に至るまで近頃ますます論説闊達。日本の将来も不安だけれど、今は、自分の将来についてもっと真剣に考えてもらいたいもの。
龍もまた、ひと癖もふた癖もありそうな“やつ”になりつつあるのを、頼もしくも思い、それが新たな心配の種ともなりぬ秋の宵・・・・・あらあら季節はもうすっかり冬だ。
「うさぎにもならんし、亀にもならんし、龍は龍」
お母さんはその言葉を信じているぞ!
そうだ、その通りだ、龍は龍らしく、龍の道を進んでくれ!
とかっこ良く言ってみても、私はまた明日になれば、私より大きくなった肩越しに、うじうじと
「そんなことやってて、大丈夫なのーぉ?」
と、こぼすだろう。
今までもそうであったように、“そんなこと”のほうが、この子にとっては、受験勉強よりも底力になりそうだから、言っててちょっと心苦しい。
今、この子の頭の中で、ふつふつと湧き起こりつつあるアイディアと好奇心とを、充分な時間を与えて、しっかりしたソフトとして昇華させてあげたい。がんがん進め!行けるとこまで行ってみろ!
これは、プログラマー吉本龍司のサポーターとしての私の気持ち。
が、一方で、声をかけなければ寝食も忘れてという状況に、体をこわしたらどうするのよ、学校の勉強が身に入らないとだめよ、とブレーキをかけるのは、中三生の親心。お母さんは、あっちとこっちと、引き裂かれそうだよー。まるで他人事のように、いっこうに心配したふうの見えない龍がうらやましいよ、まったく。マイペースで、本を読んだり、何やら調べていたかと思うと、難問が解決した後には、
「よっしゃ、わかった! あーすっきりした。腹減った」
と、満面笑顔で爽快な顔してやがる、くそーっ、お母さんも早くそんな笑顔で春を迎えたいよ・・・・・
実力があるのかないのか、実のところはよくわからない・・・・・・
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