わらびとり後日談
次男のPTAのクラス委員の役がまわってきたので、役員会に行った夜、帰ってくるなり、彼が困りきった様子で、
「お母さん、どこへ行っとったよ、お母さんおらんで、ずっと捜しとったのに、ちょっと見てもらおうと思って・・・・なんか、変なボツボツができて、痒くて痒くて・・・・・・ここにも、こっちにも、何でこんなになったんやろ、もう、お母さんちっともおらんし、どうしていいかわからんし・・・・・お父さんはあてにならんし・・・・」
「学校へ行くって、ちゃんと言ったのに、聞いてなかったの?」
見ると、お腹のあたりや、背中、脇のあたり引っ掻いてまっ赤になって、ちよっと本人パニクックになっている。
「どうしたの、いつから?」
「昨日か、おとといぐらいからちょっと痒かったけど、さっき風呂から出たら、モーレツに痒くなって・・・・・・」
「じんましんかなぁ? 何か変わったもの食べた?」
「別に・・・・給食とお母さんのごはんだけ」
ニ、三日前に遡って、食べた物を検索したけど、食あたりや、じんましんになりそうな心当たりもなく、しばらく体を見つめて考える・・・・・・・
診断結果が下るまで、神妙な顔つきのクランケ。神妙というよりは、かなり悲壮感が漂っている。
「ああっ、そうだ、山へわらび採りに行ったとき、かぶれたんだ、歩きまわったうち、何かかぶれやすい植物に触れたんだ!
薬塗っておけば大丈夫、かぶれ、虫さされとかの・・・・・
これ、これ、この薬塗って、ちょっと痒いの我慢して、かいちゃだめよ!」
一応、病名が言い渡され、投薬を受けてほっとしたのか、自分で薬を塗ってひと安心した様子でニ階へ上って行ったのだけれど、その時の捨て台詞が、
「お母さんは、うるさい事言うくせに、今日みたいに肝心な時おらんで・・・・・それでも親か!」
当人は私をなじったつもりらしいが、これは非難ではなく、自分がまだまだ、甘えん坊で、私が頼りだという事を露呈した結果になっている事に気付いていない。そして何より、“そばにいてくれるだけでいい” という母心をくすぐる逆説だという事にも気付いていない。なんだかんだ反発してみても、行動はまだわが手中にあり、といった感。この子は私の手元でゆっくり大きくなればいい。
龍司よ、世話やくべき、幼い子らのため、龍司は早く自立しなさい。龍司にはその能力は充分備わっているのだから、身のまわりの事ぐらい、きちんと自分で出来るよね。
と、このあたりで龍司にもやんわりプレッシャーをかけておいてと・・・・・・
それにしても、外出の理由がPTAで、今日は示しがついたけど、友達と飲みに行ってたりしたら、もっとなじられそう。
「お母さんは、子供には夜、遊びに行くなって言うくせに、自分は遊びに行くやないかよー」
なんてね。お母さんだって、たまには友達と遊ぶわよ。
そうそう、ついでに言っておくけど、大人になっても気軽に遊べる友達を今のうちに確保しておかないと、年取ってから淋しいぞぉ!
お母さんは、同級生で集まったり、高校の時の生徒会の役員だったメンバーと、今だに時々生徒会開いたり・・・・・その頃知り合った友達というのは、いちばん良い時代を共有しているから、良い思い出も共有できていて、なんとなしに心がなごむんだね。
この時期できた人間関係は、ほかとはちょっと違う。後で確保しょうと思っても絶対手に入れられない。財務諸表でいうところの、無形固定資産だね。友情はいくら貯めても不正蓄財なんて言われない。たくさん蓄えよう、楽しい思い出とともに。
信頼や友情のように、本当に生涯の財産となるものには形がない、自分でこつこつ積みあげ、自分なりの形を作りあげて行こう。早くみんなとうち解けて、話せる友達、気の合う友達を見つけよう、学校が楽しくなるから。それに、年取って楽しむためにもね。
お母さんはこれから、失った青春を取り戻すため、おおいに遊びもしなくちゃならない。そのためにも、お母さんをあまりあてにしてもらっちゃぁ困る。夜遊びもするぞーー 温泉旅行もいくぞーー、思いっきり、不良少女するぞー、 オー !
気勢を上げないとなかなか出かけられない母であった・・・・・・
こんな藪医者でも、どうやら見立てに狂いはなかったようで、次男のできものもすっと引いて、やっぱりあれは山でかぶれたようでした。
母親は、“そばにいてくれるだけでいい” とフランク永井の歌でも歌って、友達との約束の日をチェックする。――――― ちょっと古すぎて、通じなかったかなぁ・・・・・・
できものができて、思わずおさな心まで噴きだして見せた一件、
こ れ に て 落 着 !
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